川のにほひ

B級釣師

2007年07月10日 20:01


 
捏造

 ちまたでは子どもたちが夏休みを目前に控え、何だか楽しそうに見えます。我が家の娘も「もうすぐ夏休みだ〜!」と意味も無くはしゃいでおります。

 夏休みと言う言葉が飛び交う季節になると、何故か思い出す出来事がある。

今日はB級のそんなお話(釣り記事ではありません)

 




 小学校の中学年だっただろうか。明日から夏休みという午後のこと。

 終業式を終え、通知表をランドセルにほり込んで、明日から始まる夏休みにワクワクしながら、いつものメンバーが家に向かっていた。
 ギンギンに輝く夏の太陽のもと、僕たちはまた、いつものように通学路にある新聞店の店先につながれている犬と戯れていた。


 この店のオジサンは、今で言う地方通信員だったのだろうか、子供会の廃品回収などの写真を撮っては地方紙の片隅に写真が掲載され、片田舎のまちには珍しい「メディアの人」だった。
 

 犬と遊んでいると、このオジサンが顔を出し、「明日から夏休みか?」と聞いてきた。僕たちは学校から解放されたヨロコビでその旨を伝えた。
 するとオジサンは、「そうか! それなら、何処かの川へ魚でもとりに行こうか!」と言ってきた。僕らは大喜びだった。今のように乗用車が何処の家にもあるという時代ではなかった。車に乗せてもらえるだけで僕らは有頂天だった。


 オジサンに言われたように家に飛び帰って、得意になってその旨を母親に伝え、各々手網やヤス・水中メガネ・手作りの水中銃を手に新聞店に集合した。


 車は、僕たちがいつも遊んでいる川をどんどん遡り、来たことも無い源流部へと向かっていることが子どもにもわかった。川が次第に細くなり、人家がまばらになり、ついには渓流といえる美しい場所に到着した。


 水はガラスのようにきらめき、川底はきれいな岩盤に覆われていて、緑の輝く木々に覆われた川は、僕たちがいつも遊んでいた工場排水のあふれる川とは全く別の存在だった。

 


 河原に到着するとオジサンは、「深いところへは行くな」というようなことを二言三言話して僕らを放った。僕らは手に手に秘蔵の武器を持って河原に散った。岩の隙間に手を差し込んだり、大きな石をひっくり返したり、水中メガネで深みを覗いたり......。


 しかし何処にも魚の影は無い。さすがに僕たちも飽きてきた。僕たちの様子を見ていたオジサンは「おかしいなぁ」というようなことを言ったかと思うと、ボクたちに「君はあそこの岩の上に立って」「君はここで網を水の中に入れて」「君はあそこで水の中を覗いて」と指示をした。訳もわからず言われたとおりに配置に付くと、オジサンは大きなカメラで何枚かの写真を撮った。



 帰りの車の中は、子供心になんだか重かった。



 数日後、大新聞の地方版に「夏休みを迎え、川遊びに興じる子どもたち」というような見出しの写真入りの記事が掲載された。


 母親はその記事を切り抜き、アルバムの片隅に貼り付けたが、僕たちにとっては何とも苦い思い出になった。






 捏造なんて言葉を知らなかった、40年近く前の昭和のお話。





 なお、当ブログには、多少の誇張、プライバシー保護のための編集はございますが、「捏造」はありませんのでご安心ください。


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